12月。栃木県真岡市。鉄道で高校から帰る。
彼女のかじかんだ頬は赤く。濃紺のセーラーについた白いマフラーの毛を払う。寒月の光が川面に揺れる。小さな寺の門をくぐると保育園がある。ローファーの踵が石畳を打つ。旅館に客はおらず、花街のぼんぼりも寂しげに燃える。脱ぎ捨てた靴下に蜘蛛が這う。
それが彼女の最後の日だった。
10年が経った。
ぼくは不倫をしていて、恋人のアパートでクリスマスを過ごしている。安っぽいレモン色のブラジャーを見ている。国道では暴走族がマフラーの咆哮を轟かせている。シーフードドリアが溶岩のように熱かった洋食屋は今年いっぱいで閉店する。雪が降りそうな埃っぽい匂いが網戸から流れ込んできた。
白い呼吸と缶ビール。
ぼくはパジャマのままアパートを後にする。
なにもかもなにもかもクソったれ。なにもかもクソったれだ。
会いたいよ。
一晩中待っています。
潰れたスケートリンクの駐車場で鉄パイプを持っているのが俺です。
この街の連中は、みんなほっぺが赤い。それがイライラするんだ馬鹿野郎。
あの頃醒めた目をしながら街を憎んでた少年少女たちは、
誰一人として何者にもなれなかった。
退屈な中年にさえならなかった。
まだ熱いんだ。熱くて苦しいんだ。だから笑うんだ。笑うから痛むんだ。愛が肺を傷つけるんだ。これが僕達の真冬の火傷なんだ。
さよならばかりの人生に爆音のアクセルコール。
直管マフラーのエギゾーストが俺たちの国歌。
天使になっちまったすべてのヤツらに捧ぐ、ヤンキーと祝福の物語。
年の瀬の忙しい狂騒と祝祭。