ラット11 ストーリー

目を瞑れば海の音が聞こえる。
高層マンションにドライヴィングシアター。住宅地に無理矢理地下鉄を通したニュータウンの街並み。
郊外の工業地帯は真夜中も白い煙を吐き、ニュータウンを貫く幹線道路には赤いテールランプが蛇行する。
彼女は橋に佇んでいた。
綺麗なニュータウンの中で街の外へと繋がるこの橋だけが朽ちている。土曜日の夕暮れには一人訪れ、手すりの錆に触れてみる。その指を口元に近づけると鉄の匂いがした。そうすると彼女は妙に安心し、その時だけは欲情する事ができた。
その日、部屋に戻ると一匹のハツカネズミを見つけた。そして彼女は、気付いてしまった。ある不自然に。ここに住み始めて11年。

 

この街の住人誰ひとりとして、一歩たりともこの街から出ていない。 

 

それは自分が愛する彼氏もそう。それどころか、自分自身も、そう。
11年間も街の外に出ていないことに「気付かずにいた」。
9月の夕暮れ。彼女は錆の橋を目指す。橋の向こうを目指す。11年間佇むだけで渡る事をしなかったあの橋。
スニーカーを履いてマンションを出る。振り返る。もう戻らないかもしれない住居。そう思うと感傷的になった。
だからその時初めてマンションの名前が目に入った。

その名は「トロイメライ」。

意味は、夢見心地。

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ラット13』の続編にして全く趣の異なる「リアリズムSF」 謎が謎を呼ぶサスペンスの糸が導くのは人類未踏の真新しいラブストーリー。